第1章 賑やかな本丸
「あるじさま~?なにをよんでいるんですか?おしごとですか?もしかして、ぼくたちの『でばん』ですか?」
目をキラキラさせながら、春香の膝に座るもの、
横から見ようとするものと、書簡が読める状態ではなくなってしまった。
「こら、お前たち!そんなに寄っては皆の仕事の邪魔になる。少し落ち着きなさい。」
ちょうど、稽古場から手合わせを終えた一期一振と和泉守兼定が出てきた。
いつも、屋敷では弟たちの世話をしている一期は、廊下の様子を察して早々に切り上げて、出てきたようだ。
「あっいち兄!」
秋田藤四郎が嬉しそうに一期の傍まで走って行った。
一期は秋田の頭をよしよしと撫でている。
「兼さん達か。稽古とは、生が出るな。」
三日月は、出てきた二人を手招きをして傍へ呼んだ。
腕組をした和泉守が、はあとため息をついている。
「俺は昼寝をする予定だったんだが、一期が付き合えとうるさくてな。チビどもが騒いでくれて助かったぜ。」
やれやれと、和泉守は三日月の横に来ると、ドカッと腰を下ろし、三日月の入れたお茶を受け取って一気に飲み干した。
その後ろで一期は苦笑いをしている。
一期も三日月からお茶を受け取り、礼を述べると輪に加わった。
「でも、いい汗をかきました。ところで、今度の遠征の相談か何かですか?」
書簡を覗き込んでいた短刀たちが一期のその言葉に一斉に期待の眼差しで春香を見た。
春香は申し訳なさそうに、膝に座っている今剣の頭を撫でた。
「今回は、違う任務もあるから全員参加とはいかないの。1番隊から3番隊で動いてもらうことになるわね。」
春香の隊編成は相性によって変えたりもするが、編成は基本的に力の順番で決めている。
1番隊は、いわゆる精鋭部隊だ。
三日月はここに来て直ぐに実力を見せて1番隊に上がった。
もちろん、部隊長は加州。
因みに、2番隊を率いているのが和泉守である。
「では、主さまも我らとともに遠征へ行かれるのですね?」
小狐丸が嬉しそうに聞いた。
しかし、春香は首を横にふり、
「ううん、さすがに遠征には私は行けない。優秀なあなた達の良い結果の報告を、ここで待ってるね。」