第1章 賑やかな本丸
「初期刀の、ましてやずっと近侍を務めている加州を差し置いて、名を呼ぶ特権は得られまい。と俺は思うのだがな?」
そう言われて反論も出来ず、春香は上目使いに加州を見た。
加州はそんな顔で春香から見られるのが弱いらしく、ふいっとたまらず横を向いてしまう。
それを怒っていると勘違いした春香は遠慮がちに謝った。
「ミツ…ごめんね?私とミツの仲だもん。名前で呼ばれて当たり前だよね。もう、主さまって呼べとは言わないから、機嫌直して?」
そんな言い方をされては、いつまででもそのままにしておく訳にもいかず、躊躇したのちに横を向いたままコクリと加州は頷いた。
横目で様子を伺うと、こちらを向いて、春香は嬉しそうに笑顔を浮かべている。
「その顔は反則だろ…」
ボソッと独り言を呟いて、はあとため息をつくと、加州は気を取り直して書簡の話に戻した。
「で、話を元に戻すけど、預かった書簡がこれ。早く確認した方がいいんじゃないかって話。」
春香の前に胡坐を搔いて座り、書簡を指でトントンと叩いて中を確認するように促いた。
春香はさっそく中を確認してみる事にした。
「また遠征の依頼だね。でも、少し難易度が高めみたい。」
皆に見えるように廊下に置き、皆で書簡を覗き込んでいると、短刀たちが、気になったのか、寄ってきた。