第5章 儚い恋
「すまん、主。」
ぱあんっ!
骨喰は春香の頬を叩いた。
思わず、山姥切が構える。
「骨喰!何やってんの!」
止めようとした鯰尾を、和泉守が手で制した。
「我が主よ。いくら泣いても、後悔しても、ここに居たいち兄は戻らない。」
「…!」
春香は頬を押さえながら、やっと、骨喰を見た。
骨喰は言葉を続ける。
「いち兄は、貴方を守れた事に誇りを持っていると、俺は思う。そして、最期は幸せそうに笑っていたと。だから、貴方はもう自分を責めてはいけない。貴方が自分を責めると、いち兄の行動は無駄になる。」
骨喰の言葉に、春香はまた涙を流したが、今度は話を聞いている。
構えていた山姥切は、剣を鞘に収め、腰を下ろした。
骨喰は、一呼吸おいて、話を続ける。
「いち兄がまた貴方の元へ、記憶がなくなっても戻ると言ったと聞いた。なら、俺たち兄弟は、兄の愛した貴方に忠義を尽くす。我ら兄弟、これからも貴方に仕える所存だ。」
話すだけ話すと、骨喰は、春香に向かって敬意を表す為に、片膝をつき、頭を下げた。
「骨…喰…」
それに習い、鯰尾と五虎退、薬研も頭を下げている。
「皆…ありがとう…ごめんね…」
「もう、謝らないで。俺たちは、俺たちの大好きな主様を守ってくれたいち兄を、誇りに思うよ。」
鯰尾が、春香の涙を拭いながら、安堵の表情を浮かべている。
「そうだぜ、大将。何より、俺っちも、こんなに楽しい本丸で毎日過ごせるんだ。ここに来れて幸せだぜ!」
薬研も嬉しそうに話す。
「おーおー、せっかく、この兼定がかっこよく決めようって時に、美味しいとこ持って行くなよな!」
やれやれと、和泉守が胡座をかいた。
「そ、それは…うちの兄弟がすいません…」
春香に、上着をかけながら、五虎退が謝っている。
「いや、五虎退のせいじゃないからね。兼さんったら…ほら、山姥切も何か言って!」
文句を言いながらも、堀川の顔から安堵の笑みがこぼれた。
「俺は…主が元気になってくれたら、それでいい。」
山姥切は、一番後ろで、ほっとした表情を隠す為に、布を被り直している。
そんな皆の温かさにまた、春香は涙が溢れた。