第3章 無自覚の三角関係
一方、加州は三日月に言われた夜伽が頭から離れず、春香の部屋の近くで入るかどうかを迷っている。
いつもなら、気兼ねなく入っていけるのに、変に意識してしまっては簡単な事ではなくなってしまった。
悩みぬいた末、灯りがついている部屋の外から障子越しに声をかけてみる事にした。
「春香。起きてる?」
すると、少し間を置いて返事が返ってきた。
「ん…ミツ…?ふぁ…何?」
春香は眠そうだ。
返事が返って来たのにほっとしつつ、目的の報告書の状況を聞いた。
「報告書はもう終わりそう?あんまり無理しないでね。」
すると、春香障子越しにふふっと笑い声が聞こえてきた。
「ありがとね、ミツ。こうやって、誰かに心配されるのって嬉しいもんだね。」
それは春香の事が好きだから
とはさすがに言えない。
三日月達との事があったからなおさら意識してしまう。
「あっ、当たり前じゃん!大切な主だし、俺、近侍だし。とりあえず、早く寝なよ。おやすみ。」
「あっミツ、待って!」
障子を開けて春香が出てきた。
何事かと加州が思っていると、近くまで寄ってきた。
「ちゃんと顔見て言おうと思って。おやすみ、ミツ。」
嬉しそうにそう言われると、加州はぎゅっと抱きしめてしまいたい気持ちが溢れてきた。
しかし、その気持ちを抑えて挨拶をした。
「お、おやすみ…春香。もう遅いから、ちゃんと寝てね。」
すると、春香はまた、嬉しそうに頷いた。
ああ、ダメだ。と加州は思った。
この想いを告げたら、楽になるだろうか。
告げてみようか。
でも、告げてしまえば、今の関係は間違いなく崩れる事を分かっていた。
ぐるぐると回っている思考回路を止めは出来ず、そのまま笑顔を崩さない様に心掛けながら、踵を翻し、部屋へと帰って行った。