第3章 無自覚の三角関係
ある日の夜、一期が遅めの風呂へ入り、部屋へ戻ろうと歩いていると、縁側の途中で三日月が鶴丸とお酒を飲んでいた。
「一期も一緒に月見酒をどうだ?」
少し考えた後、
「では少しだけ。」
と参加することにした。
盃に酒を注ぎながら、鶴丸が話しかけてきた。
「最近、稽古だけでなく他の事にも、前以上によく励んでいるようだな。主が嬉しそうに話していたぞ。」
「私など、まだまだです。主様に褒めていただくほどではございません。」
一期は春香が自分を褒めてくれていたと聞き、少し照れくさくなった。
「主のためらなば、任務に励むのも当然だ。しかし、あまり無理をしてくれるな。付喪神として、この様に人の身なりで存在しているが故、忘れがちだが、我らは、元は刀。時には人よりもろく壊れてしまうぞ。」
「だから…なのかもしれません。」
その三日月の忠告に、少し下を向き、話し出した。
「私は、元の主の城で焼け落ちた時に、弟たちと共に記憶も一緒に無くしております。ここに来るまでは、また記憶を無くすのを恐れて、無理になどは考えませんでした。しかし、今の主、春香様は、何事にもとても真剣に、人一倍頑張っておられます。そんなお姿を見て、あの方のために働けるのであれば、この身を全て捧げても良いと。そんな御方に、もっと上へ行けると言われて、欲が出ただけなのです。」
照れながらも嬉しそうに話す、一期の言葉に三日月は微笑んだ。
「その気持ち、分からんでもない。春香も幸せ者だな。のう、加州よ。」
そう言われて、加州が廊下の角からしぶしぶと言った表情で出てきた。
「さすがは三日月さん。気づいてたんだね。」
はあとため息をついて、加州も縁側に腰を下ろした。
三日月に酒を勧められたが、一杯だけと断りをいれて盃だけを受け取った。
「で、わざわざここに俺を呼んで、何か用?」