第21章 そして景色は
例の勉強部屋で少女と少年は対峙していた。
『私はリドルくんの隣には並べないよ』
いつも通りの決闘後、少年と少女は並んで少し行儀が悪くも床に座っていた。
「君は素晴らしい人間だ。そんなに悲観することはないよ?」
少女の声は呟くように、しかし2人以外誰もいないこの部屋ではよく響き少年の耳に届いた。
少年の声は誰もが聞いても完璧な声音でしかしながら少女の答えを否定していた。
『知識も力も覚悟も何も無いから無理なんだよ』
「ヒカル?」
怖い、と思った。
紅い瞳を見るのが怖いと思った。
少女は未来の一つを知っている。
少年がいずれ闇の中で牙を向くことを知っている。
名前以外何も口にしていないのに少年の一言には十分な力があった。
「ヒカル、こっちを見るんだ」
『……っ』
服従の呪文なんて必要としていなかった。
少年の言葉は魔法のように少女の俯いた、視線の交わることのなかった顔をあげさせる。
少女は眉を落とし今にも泣き出しそうな表情をしている。
紅い瞳と潤んだ黒い瞳の視線が交わる。
チラチラと燃える紅い瞳は少年の苛立ちを表していた。
少女は怖かった。
ただ、少年の闇に怯えてるわけでは無かった。
その事に気づく者はこの場にはいないわけだが…
「それがこの前の返事ということでいいんだな?」
少年の纏う雰囲気が冷えていく。