第3章 到着
「これは、これは珍しいお客さんじゃ」
掛けなさいと言いながら杖を1振りし2人がけのソファーをどこからともなくだした。
少女は突然消えるんじゃないかと半ば疑いつつ、片手でソファーを抑えながら腰を下ろした。
当然のことながらソファーは逃げもしなければ消えもしなかったのだが。
「して、トムよ。わしはこのお嬢さんを初めて見るのだがここの生徒ではないな?」
入口に置いてけぼりにされたキャリーバッグとホグワーツでは有り得ない制服姿の(つまり日本の高校の制服姿であった)少女を一瞥し若干だが警戒するような色を含んだ瞳をこちらに向けた。
「禁じられた森の近くにある湖にいたので連れてきました。英語が苦手らしく意思の疎通が出来ているかわからないのですが…」
ならば、と再度杖を1振りし
「お嬢さん、これで言葉は分かるかね?」
『あの…通じてますか?』
少女は元々何故かわからないが聞き取る分には日本語に聞こえていたのだから伝える方が相手と同じ言語になっていさえすれば良かった。
杖1振りでこんな細かいところまで出来るのか正直少女は不安だった。
「通じておるよ。さてお嬢さんの名前を教えて貰っても?良ければ何故ここにいるのかも。」
『あ、はい。名前はヒカル・琴吹です。見ての通り日本人です。駅の階段から落ちて気づいたらあのリドル君が言っていた通り湖のそばで寝ていまして…』
何故かと言われると分かりません、とフェードアウト気味に答えた。
老人はふむ、とゆったりと背もたれに体重をあずけた。
話しながら少女は悩んでいた。自分はこの世界を物語として少し知っている。それは伝えるべきだろうか…と。