第20章 選択する
学年が違うため授業で会うことは無いのが幸いだったのか、朝にすれ違ったため昼も会わず夜、大広間で少年と少女は出くわした。
「ヒカル!」
離さない、というように見た目よりもしっかりと捕えられた手首には黄色人種の少女よりも遥かに白い手があった。
『リ、リドルくん…久しぶりだね…?』
「朝にも昼にも見かけなかったからまた体調を崩したのかと思った」
スムーズな流れで少女の隣に腰をかけた少年はまるで小間使いかのように少女の皿に食事を盛っていく。
旗から見れば親切だが微妙に少女の苦手なものを入れてくるあたり相当のお怒りを少女は察した。
『もういいよ!?』
「また体調を崩すといけないからね。しっかり食べなきゃ」
少女の皿には普段よりも幾分か多い食事が盛られていた。
『いただきます……』
「なぜ、ノートに返事をくれなかったんだい?」
食事の合間に交わされる言葉はとても明るい雰囲気とはかけ離れていて、お世辞にも楽しい話題とはならなかった。
少年の機嫌はどうやら昼間に来た例のノートを無視したことにあるようだ。
『時間がなかったんだよね』
「へー?今度の練習をいつやるかの返事を書くのにそこまで時間がかかるとは思えないな」
『だってもうすぐ試験だから。一応初めて受けるからどんなのか不安はあるし』
少女はまるでLINEの既読無視のようだとどこか呑気な連想をしながらサラダを摘む。
意外とこのドレッシングとの組み合わせは美味しい。
「アブラクサスに対策をさせればいい」
『……はい?』
「アブラクサスに3年の試験に関して対策を立てさせればいい。なに、あれでもアイツは首席だからな。」
少女は察した。察せてしまった。
少年の闇が着実に広がっていることを。
それは少年の中だけでは収まらずわずかこの歳の時に既に仲間を得ていたことを。
また目の前が遠くなったように思えた。
数時間前にした少女の決意がろうそくの灯火のように燃え尽きようとしていた。
反比例するように少年の瞳は紅々と煌めいた。
それを静かに見つめる青い瞳に2人は気づくことは無かった。