第16章 ささやいて
少女とのお茶会がお開きになり、残った紅茶が香りを失い冷めてしまった。
それほどまで長い時間、老人は思案していたのだ。
良い表情をするようになった。
老人は密かに心配していたのだ。
学期が始まって1ヶ月ほどたった頃だろうか、初めて自分の研究室(と言っても変身術より趣味の研究材料が多い)にてお茶会をした時少女の表情は冴えなかった。
それは逃げの選択肢をしたことによるものだと思っていたためじっくり経過を観察することにしたのだが。
困った表情をしながらもどこか嬉しそうな雰囲気を醸し出すようになった。
以前なら悲しいほどにまゆを下げていただろうに。
老人は少女の胸のうちに些細ながらもなにか変化があったのではと想像していた。
そして似たような雰囲気をある少年がもつようになったことにも気づいていた。
トム・マールヴォロ・リドル
入学時から異彩を放っており2年目にして成績優秀、品行方正と非の打ちどころのない少年だった彼が少女と時間を共にするようになってから少しずつであるが雰囲気が柔らかくなっていっているのだ。
彼が最も素に近い表情などを見せるのは少女に対してだけである。
同寮の先輩であるマルフォイ家の青年にも素に近いと感じる時もあるがそれと同時に末恐ろしい闇を感じるのだ。
老人は好奇心に駆られていた。
深い穴をのぞき込むような、高いところで淵を歩くような、怖いもの見たさの混じった好奇心に駆られているのだった。
少年は偉大な魔法使いになるだろう。
しかし少年はこのままでは闇に染まってしまう。
ここで道を正すのが教師としての義務だろうが、道を正した瞬間少年の飛躍も止まってしまう気がしている。
まだ、まだ成熟しきないから間に合う。
そう、自分に言い聞かせ暗く深い闇色の穴を淵から覗き込んでいるのだった。