第12章 イタズラ
人も疎らになり始めた地下の談話室はパチパチと暖炉の火が暖かく室内を照らしていた。
『〜♪』
少女は鼻歌交じりに今日貰ったお菓子たちをテーブルを占領して並べていた。
現代なら確実に写真を撮ってSNSにあげていただろう。
ホグワーツでは電子機器が使えないためこの世界に持ち込まれた少女のスマホもカメラ機能さえ使えないタダの金属の塊と化していた。
「随分とご機嫌だね、ヒカル」
『リドル君!だってこんなにたくさん!』
「これ以上太っ」
『リドル君、シャラップ!』
少年が禁句を口にすると鬼の形相で少女が睨み返した。
少年は肩をすくめるとさも今思いついたかのようにイタズラな笑みを浮かべながら少女に問うのだった。
「Trick or Treat?」
『え!?朝あげたじゃん!』
「〝君が〟〝勝手に〟あげただけだよね。
僕は〝今〟イタズラかもてなしかを聞いてるんだ」
『えー!もう無いよ。アブラクサス先輩で終了だよ!』
「じゃあイタズラ、だね?」
少女は嫌な予感がした。
この少年のことだ、生半可なかわいいイタズラでは済まされないだろう。
そして余計なことにここ数日少年が図書室に通っていたことを思い出してしまった。
少年が調べることだきっと禄でもないに違いない、そう少女は思い覚悟を決め固く目を閉じた。
「そう固くなられても…そこまで非情な精神は持ち合わせてないよ」
『だってリドル君だもん。優しいとかありえない!』
少年は肩を竦め小さく呪文を呟き杖を一振するとイタズラ完了と言った。
少女は襲ってこない痛みに違和感を覚えながら恐る恐る目を開ける。
視界は何も変化がない。
手を見てる。変わってない。
いや、〝手は〟変わってなかった。
服装が変わっている。
『リドル君これ……』
「大丈夫、半日もすれば呪文は切れるよ」
少女は和服姿に変わっていた。
少年は和装などには詳しくないだろうにセンスは抜群でしっかり着付けまでされている。
「明日朝起きたら会いにおいで、髪も結ってあげよう」
『ハハハ、ヨクシラベマシタネ』
「仮装、したかったんだろう?」
『お国の民族衣装なんで仮装っていうのかなぁ』
「僕らからすれば立派な仮装だよ」
少女は翌日ほとんどの時間をこの和装で過ごしたのだった。
そしてこれをきっかけに毎年の仮装が和服になるのはこの先の話である。