第12章 イタズラ
『純血』
地下の寮の談話室はまだ10月末だというのにヒンヤリとして少女は寒さを感じていた。
流石に談話室の暖炉は使われていないがきっと近いうちに熱を持つことを容易に想像できる、そんな底冷えした空気がスリザリン寮のある地下には流れていた。
『あ、リドル君!trick or treat!!』
「……………。」
少年は少女を一瞥すると手元の分厚い本に視線を戻した。
まだ朝早くなので2人の他に誰もいない。
少女はもう1度笑顔で少年に話しかけた。
『リドル君、trick or treat?』
「……………………。はぁ。」
長い沈黙の後盛大なため息が零れた。
少年はサイドテーブルに置かれた杖を手に取り無言で振る。
何やら男子寮の方から箱状の物が勢いよく飛んでくる。
飛んでくるのだ、少女をめがけ、一直線に。
しかし少女は咄嗟に避けることも出来ず思い切り箱を頭部にぶつけてしまった。
『〜〜〜っ!!』
「お望みのお菓子だよ。
せいぜい食べすぎで太らないことを祈ってるよ。」
『一言多いんだから…。はい、これあげる。』
少女が少年の前に差し出したのは先ほど厨房で作っていたパウンドケーキだった。
まだほのかに温かいそれは上品でかつかぼちゃ本来の甘みがわかる香りをしていた。
『私が作ったから味は劣るかもしれないけど…。
ヘンな薬は入ってないから。』
「気が向いたら食べてあげる。」
少年は素直とは程遠い態度であったがそれを受け取った。
少女の顔がほころんだのを知るのは少年ただ1人だった。