第10章 そして分けられる
『お待たせ…』
扉を開けると壁に持たれ窓の外を見つめる少年がいる。
スッと通った鼻筋や薄く形の良い唇、長いまつげは赤い瞳を囲っていて、きめ細かい肌は光を受けて輝いているように思えた。
少女は少年に見とれていた。
「やっとか……何、そのネクタイ。」
お世辞にも綺麗な結び方とは言えないネクタイ。
結び目のキチンと結ばれたネクタイをした少年にとっては有り得ないことであった。
「ネクタイぐらいきちんと結びなよ。」
少し顔上げてて。
言われるがままに少女は斜め上を見る。
少年の手がスルスルとネクタイを解きそしてまた結ぶのがわかる。
まだ色のないネクタイは今度は綺麗に少女の首元を飾った。
『あ、ありがとう!』
「別に、ネクタイ一つ結べないと大変だね。」
読書を始めた少年、
その正面に座る少女は時々思い出したかのように重いまぶたを開け眠気と闘っているようだ。
汽車の進む音と少年の紙をめくる音、
そして少女の静かな吐息だけがコンパートメントに満ちていった。