第8章 待っていた、待たれていた
手に取るとひんやりとした感覚が気持ちいい杖だった。
ぼんやりとこれが私の杖なんだと考えていた。
「……杖が見つかったようじゃな?」
『はい、先生。』
さっと1振りすると天井からハラハラと粉雪が舞い降りてきた。
指先に触れるか触れないかで温度すら持たずに消えていく儚い粉雪はオリバンダーの店を柔らかく包んでいた。
「…ブラーボ………。」
店主はまさに〝開いた口が塞がらない〟状態で、辛うじてこの言葉が喉からひねり出された形となった。
「よしよし。これで買い物は終わりじゃな。」
最後の買い物には時間がかかった。
しかし少女は満足していた。
これでようやく自分の杖が手に入るのだから。
「貴方と貴方の杖に幸あらんことを…。」
店主に祝福の言葉をかけられながら少女と老人は店をあとにした。
来る時とは変わって右手に白い杖を持った少女の三半規管が悲鳴を上げたのはその直後だった。
我が家と言うべき城に帰って来た少女はダイヤルを黒に合わせ早速呪文を試していた。
勉強部屋には恐る恐る杖を構えながら魔法を唱える少女だけがいた。
『オーキデウス』
愛らしい花が1輪現れる。
『〜っ!成功した……!!』
練習用の杖では有り得ないぐらい軽々と思い通りの呪文が成功した。
今まで練習できなかった防衛術と妖精の呪文の練習に早速取り掛かる。
そうして少女は自分だけの杖を手に入れたのだった。
【待っていた、待たれていた】