第8章 待っていた、待たれていた
『うぅ……。』
何かが頭に、正確にはおデコに当たった気がする。
若干痛い気がしたのでさすさすとおデコを撫でておく。
「なんと!杖が呼ばれましたか!」
いやはやなんと珍しい…と呟きながら店主は箱のホコリを丁寧に叩いていく。
「ヒカル、大丈夫かね?」
『あ、はい…何とか。』
よいせ、という声とともに少女は立ち上がる。
軽く事情を聞くと何ともまぁ、不思議なことに箱が少女めがけて飛んできたらしい。
少女はまさか自身が心の中で発した呪文に引かれたわけではあるまい、と思ったのだが可能性があるのは薄々感じていた。
「おぉ、お嬢さんこちらを…。」
店主に差し出されたのは丁寧にホコリを取られた黒い箱だった。
おそるおそる少女が箱に手をかける。
「先ほど開けようしたんですが開かなかったもので、開くかどうかわかりませんが。」
少女は半ば呆れてしまった。
トリップ特有のチート、自分にしか開けられない箱。
と、なるとこの箱に入っている杖は紛れもなく自分の杖である。
やはり呪文で呼び寄せてしまったらしかった。
受け取った時とは打って変わって、それはもう潔く迷いなくそして自然に箱を開けた。
-パカッ…
控えめな音がした。
少女はもちろん大人2人もあまりの美しさに息を飲んだ。
店主はそしてあまりの美しさに感動の涙まで流した。
中から現れたのは箱とは対照的に真っ白い半透明な1振りの杖だった。