第1章 悪魔の正義
「どうして殺す必要があるのかな…」
墓地の近くにある森林がさわさわと風に揺らされる。
風を感じていると、家族三人でいた記憶が甦り、小さい頃の思い出が一気にノアルールの脳内に浮かび上がる。
「お母さん、お父さん…」
ノアルールは重い足取りで、両親のお墓前に向かう。
両親のお墓につくと、二つの花束を置いた。
右に"リドヤード=アルカナここに眠る。"
左に"ファーウ=アルカナここに眠る。"
ノアルールは手のひらを左胸にあて、祈りを捧げる。
「お父さん、お母さん、私はちゃんと生きているよ。
一人でボロ屋の暮らしは、まあ寂しいけど。
私、まだまだ頑張るから。」
―シスター……唯一私の親代わりだったのに……
どうして……どうして育ての親すら殺されたのだろう……
グラスとルーラはノアルールを見つけ、ゆっくり近づいた。
後ろの存在に気づきながらも、ノアルールは振り向かず言った。
「どうして…
どうして、シスターを殺めたのですか…」
ノアルールはただ、両親のお墓を見て言った。
頬に涙が溢れた。
グラスはただ一言、うつむきつつ悲しい声音で言った。
「詳しい話は言えんが簡単に説明すると、シスターは悪い事をしたんじゃ。
死刑にされてもおかしくない事をな。」
ルーラは沈みゆく夕日を見て、黙ったまま去った。
グラスもそれに続いて立ち去る。
ノアルールは声を上げて一人で泣いた。
「シスター…何をしたのですか……」
―夕刻。
昼には騒がしかった商店街もすっかり静かになり、街灯だけが寂しく照らしていた。
「すっかり暗くなったな…」
ノアルールは急ぎ足で家に向かう。
人気がないこの町に寒い風がふく。
先程の店の間にある路地から二つの視線がノアルールについてきてる事も知らずに。
ようやく自分の家に着いたノアルールはイスに腰掛け、ため息を着いた。
「鍵も閉めたし、大丈夫。
最近は物騒らしいからね。」