第1章 悪魔の正義
太陽が真上に登っている頃。
「これください。」
ガヤガヤと騒がしく人がたくさん行き来する西洋の町並み。
―ここはアメリーゴ王国。
政治の主権は王だが、民主制である。
この時代極めて珍しい国。
王は国の経済を考えつつ、市民を大切にしている。
唯一絶対王政ではない国だ。
アメリーゴ王国の南に位置するクッキー州で、ある少女は商店街が並ぶ花屋に来ていた。
花屋のおじさんは少女の姿を見るなり、言った。
「お、ノアルールちゃん、バラ置いてるよ。
…今日はお母さんとお父さんの10回忌だね。
これでいいかい?」
「ボランさん、いつもありがとうございます。」
ノアルールは花束をボランから受け取り、お金を出した。
「まいどあり!
気をつけてね。」
ノアルールはバラの花束二つを持って、店を出た。
「本当に、時が経つのが早いね……」
ノアルールは少しため息をついた。
だが悲しい思いを振り払い、町外れにある教会を目指した。
店の間にある路地からノアルールを見る二つの視線に気づかずに。
「シスター、ごめんください~。」
ノアルールは教会の戸を叩く。
反応のない扉の向こう側が気になって、もう一度呼び掛ける。
「シスター?
居ないんですか?」
"おかしい…
いつもなら出てくれているのに…"
しびれを切らしたノアルールは、教会の扉のドアノブに手をかける。
「誰か居ませんか?」
ドアの向こうから反応がなかった。
が、ギィイイイと嫌な音をたてる扉が開いた。
ノアルールは目の前の光景に驚愕し、抱えていた花束をバサリと落とす。
「え……」
いつも笑顔を振り撒き、慰めてくれた、女神みたいに優しいシスターが…
俯せになって血を流した無惨な姿になっていた。
返り血を浴びて少し変色した黒い軍服を身にまとい、顔も血まみれになっていて、髪は藍色で右目に眼帯をし、刀の刃がノコギリ状になっている血生臭い武器を手にした男が立っていた。
その姿はまるで悪魔のようであった。
男はノアルールの存在に気付き、つかつかと刀を手に近づいて行く。
ノアルールは逃げようと考えた。
しかし、足が震え腰が抜けてしまった。
男は笑い、動けないノアルールの目の前にだんだんと近く。
ノアルールは次第に顔を青ざめて、ガクガクと震え出す。