第2章 第一章『A Fateful Encounter』
「おーはよー、蓮!」
「おう、よく眠れたか?」
「うん!」
カレンダーの日付の欄には×印がついていて、昨夜つけた三十一個目のそれが、八月の終わりを告げていた。
そしてユウラは今日である九月一日の数字をハートで囲んだ。
「準備出来たか?行くぞー」
「はーい」
この一ヶ月で、ユウラは大分ロンドンに詳しくなった。毎日毎日探検に出かけたし、気に入った場所にはほぼ毎日通った。よって、キングズ・クロス駅に行くのは簡単だ。
プラットホームはマグルでごった返していた。ユウラと同じように大荷物を持った子供は見受けられない。と、蓮が突然立ち止まったので、ユウラは柵にぶつかりそうになってしまった。
「そのままぶつかっちまえば良かったのに」
「なんででしょうか」
「いや、そこが93/4番線への入口だからよ」
そう言って蓮が一枚の切符をくれた。そこには確かに93/4番線と書かれているが、それらしいプラットホームは見当たらない。二人がいるのは「9」と「10」と書かれたプラットホームの間の柵の前だ。
「どういう事?」
「いいから、さりげなくこの柵に寄りかかれ」
蓮に言われた通り、ユウラは柵に寄りかかってみた。すると……
「うわわわわわわっ」
危うくもう少しで転びそうになったが、なんとか体勢を持ち直したユウラは、周りを見回す。相変わらず人でごった返してはいるが、その人自体が先ほどとはまったく違う雰囲気を漂わせている。
柵に手応えはなく、まるですり抜けたようにここにたどり着いてしまったようだ。
「93/4番線へようこそ」
「蓮」
「ほら、十一時には列車が出ちまうぜ。早く乗りな。悪いが俺は一足早く行ってるからよ」
「え、ちょっと!」
言うが早いか、蓮の姿はもう米粒程度になっていた。しばらく呆けたように見つめていたユウラであったが、やがてため息と共に列車に向かって歩き始める。
「う…重……」
トランクを列車に載せようと、ユウラはひとり悪戦苦闘していた。周りのほかの子たちは皆、親や兄弟に手伝ってもらっていて、駅員もこちらには気付いてくれない。ユウラはまたしてもため息をついた。
「お困りですか?」