第2章 新生活
影山くんはまず英語の教科書を取り出す。
「英語苦手なの?」
「…日本人に英語なんて必要ないだろ。」
「え、でもさ。影山くんて、全日本興味ないの?その先の世界とか…。よく海外のチームで武者修行して帰ってきた選手とかが言葉の壁があって大変だったとか言うじゃん。」
「それはそれ、これはこれだ!」
影山くんは不服そうに腕を組む。
「だいたい、海外の奴らは日本に来ても自分の国の言葉で話そうとするくせに、何で日本人は向こうに合わせなきゃならない。」
「まあ言いたいことはわかるんだけどね…」
影山くんの理屈を聞いていたら笑ってしまった。
何だか、頑固なおじいちゃんを相手にしているみたいな感じ。
「なんか今、ろくな事考えなかっただろ。」
「え!そんなことないよ?」
「お前は分かりやすいんだよ…良くも悪くもな!」
不満気な影山くんをなだめ、勉強を始める。
影山くんの学力は、私が思っていたよりかなり低いようで、英単語の暗記すら覚束ない事態だった。
前に、影山くんは何でもっと強豪校に行かなかったんだろうと他の部員と話題になった時、受験で落ちたらしいと聞いた。
あの噂は本当だったのか。
私は、一旦自分のクラスに戻って勉強道具を持参してから影山くんのところへ戻った。
影山くんに、自分の英語のノートを渡す。
「そもそもさ、ちゃんとノートとってる?授業中、寝たりしてない?」
「うっ…」
影山くんはびくっと肩を震わせた。
自分だって分かりやすいじゃない。
「疲れてるのは分かるけど、テストの点数のせいで影山くんがバレーできなくなったらもったいないよ。」
「………。」
「幸い、英語の先生同じだからこれ写して?」
「…サンキュ。」
私からノートを受け取って写し始める影山くん。
何だか今はすごく素直だった。
私のノートをめくる影山くんが言う。
「お前、字きれいだな。」
「そ、そうかな?ありがと」
影山くんにほめられると無性に照れる。
普段あまりそういうことを言うタイプではないからだろう。