第14章 大地さん。
「ごめんなさい。今は私、言うこと聞きたくないです。」
「え……?」
「大地さんを一人にしたくない。」
「菜月………」
「私じゃ、だめですか。こんな時くらい、支えになりたいです………」
それを聞いた大地さんは、辛そうに顔を歪めた。
そして俯き、肩を震わせ始める。
そんな大地さんの様子を見て私も、もう涙を我慢することはできなかった。
ずっと一人でキャプテンという重責を担ってきた大地さん。
その苦労や努力を思うと、私は彼のことを抱きしめたくて仕方なくなる。
彼の前に立ち、ゆっくりとその背中に腕を回した。
大地さんも体を震わせながら、同じように私の背中に腕を回してくれた。
その瞬間に、思った。
ああ。
やっと預けてもらえた。
彼の重たい荷物。
最後の最後になってしまったけど、ようやく見せてもらえた。
彼の弱い部分。
傷ついた心。
そしてそれを、私の体温がほんの少しだけでも癒すなら、喜んで差し出したかった。
次の試合が始まったためか、先程まで賑わっていた私達のいる通路には、人気がなくなっていた。
今はそれを、本当にありがたく感じる。
もう彼には二度と巡って来ない「春」を思い、まるでドラマの中のワンシーンのように、私達は二人で泣きながら抱き合っていた。