第12章 影山くん。
影山くんに怒られた。
怒ってもらえた。
それが本当に嬉しくて、こらえきれずに涙がひと粒頬を伝って落ちた。
「だって…!」
「こんな所で泣くなよ…俺が泣かせてるみてえじゃねえか。」
そう言ってハンカチを差し出す影山くん。
ありがたく受け取って、私は軽く涙をふいた。
「ごめんね、こんなところまで押しかけて…」
「どうか、したのかよ。」
「今日帰ってくるって西谷先輩から聞いて…。どうしても今日のうちに会いたくなっちゃって。だめもとで、来てみたの。」
私の言葉を聞いて、軽くため息をついた影山くんが口を開く。
「悪かったな、何も言わずに行っちまって。」
「……ん。」
「お前に言うと決心鈍りそうだったから。」
「決心?」
全日本への招集は影山くんの夢の通過点なのだから、決心も何も二つ返事だったんじゃないのか。
そう思って私は影山くんの顔を見返した。
「お前にこんなに長い間会わないのとか初めてだったから。もちろん合宿の件は断るつもりはなかったけど、俺の気持ちの問題だよ。」
「…そっか。」
影山くんも私に会いたいと思ってくれていたのかな。
そう思うと、胸が熱くなる。