第10章 「春」
「ほんとに手冷てえな……」
「は、恥ずかしいからそんな何度も握り直さないでー!!」
「菜月、声でけえよ……。騒ぐなってさっきお前が言ったんだろ。」
「う………」
そう諭されて、口を噤む。
声のボリュームについて影山くんに注意されてしまうなんて、不覚。
「今年も、もう終わりだな。」
「そうだ、ね……。」
繋がれたままの右手が気になって、会話に集中できない。
でも、今日は珍しく影山くんが自分からよく話す気配があった。
「菜月は、今年何が一番良かったことだと思ってる?」
「一番、良かったこと……?」
バレー部に入れたこと。
みんなに出会えたこと。
みんなとたくさん思い出が作れたこと。
咄嗟にいくつか頭に浮かぶ。
でもそれはみんな引っくるめると………
「烏野に来れたこと……かな。」
素直にそう呟く。
それを聞いた影山くんは、少しだけ笑って、こくんと頷いてくれた。
「俺もだ。烏野に来れたからこそ、俺は変われた気がする。」
「うん……!」
いつもあまり素直じゃない影山くんのその言葉に、私は思わず笑顔がこぼれてしまう。
他の学校に行っていたら影山くんがどうなっていたかなんて分からないけど、そんな事よりも影山くんがそう思ってくれていることが嬉しかった。