第10章 「春」
影山くんはそれを聞くと、何故か大きなため息をついてから前を向いたまま、私の右手を乱暴に握ってきた。
「えっ……!!」
「冷てっ……!!!」
私の手のあまりの冷たさに驚いた様子の影山くんだったけど、そんなリアクションをしておきながら、握った手を離さない。
「ちょっと、何?!冷たいから離して!!」
「あっためてやろうと思ったんだよ!悪いか!!」
本日2度目の「悪いか!」を頂いてしまった。
怒ったように前に向き直った影山くんは私の手を掴んだ左手を自分のポケットの中に突っ込んでしまう。
影山くんの手のぬくもりがじわじわと右手に伝わってきて、少しずつ温められていく。
それと同時に私は頬まで熱くなってくる。
「ねえ、影山くんの手、冷たくなっちゃうよ。」
「うるせえな。ずっとこうしてりゃあ、そのうちあったまんだろ。」
そう言ったあと、今度はポケットの中で指を絡ませてくる。
影山くんの今の一連の行動のせいで、私はもう十分体が温まったような気になってしまう。
「左手までは面倒見切れねえから自分のポケットにでも突っ込んどけよ。」
「う、うん………」
そう、ぶっきらぼうに言う影山くんに短く相槌を打つのが精一杯だった。
影山くんの言う通り、左手は自分のポケットにしまう。