第10章 「春」
そう言って影山くんは歩き出す。
そして私の方にちらりと視線をやってから再び口を開いた。
「お前、具合でも悪いのか。」
「え、なんで。」
「マスクしてるから…。」
影山くんにそう言われて初めて、自分がマスクをしていたことを思い出した。
「あー、これね。風邪予防と寒さ対策!」
「寒さ対策?」
「だってさ、顔ってマスクでもしない限り冷気防げないじゃん。これしてるとあったかいんだよ。」
「お前、寒いといつもぎゃーぎゃー言ってるもんな。」
「はは……おっしゃる通りで。」
影山くんは、前に戻していた視線をもう一度私の方に向けてくる。
今度は、手元。
「その割には手袋してねえじゃねえか。」
「あー!!!」
これまた、影山くんの言葉で手袋を忘れていたことを思い出す。
部屋で準備していたとき、煩わしいから最後につけようと後回しにして、そのまま忘れてしまった。
「バカじゃねえの。顔より普通、手だろ。」
「自分でもそう思うから、もうそれ以上触れないで。」
マスクの下で苦笑しながら影山くんに伝える。