第10章 「春」
「あー、おいしかったですー!!ほんとに菅原先輩、今日はありがとうございました!!」
結局、いつもの遅くなった時のように先輩は家まで私を送ってきてくれた。
「いや、俺の方こそ楽しかったよ。付き合ってくれてありがとな。高校最後のクリスマス、お前と居られて最高だった!」
先輩の言葉にまた赤くなりながら私は、はたと気付く。
「あ、そうだ、これ!」
先輩に借りていたマフラーを外す。
危うく返すのを忘れるところだった。
「すごく温かかったです。ありがとうございました。」
そう言って、さっき先輩が私にしてくれたように彼の首元にマフラーを巻きつける。
「菜月………」
マフラーを軽く整えて、先輩から離れようとした時。
間近に先輩の声が聞こえて、体が動かなくなる。
気付けば、背中に先輩の腕が回っていた。
「………ごめん、抑えきかなかった。」
「菅原先輩……」
「何度も言うけどさ。俺、菜月が好きだよ。本当に、菜月のことが好きだ。」
先輩の甘い言葉に、頭がくらくらしてくる。
彼の腕が、私をぎゅっと抱きしめる。
「菜月が心を決めてくれる日、俺ずっと待ってるから。」
それだけ言うと、先輩はゆっくり私から離れた。
そして照れくさそうに笑い、じゃあまた明日!と私に背を向ける。
「おやすみなさい……」
かろうじて、それだけ言葉を返した。
春高が終わったら。
いい加減答えを出さなければ。
先輩の切ない声が耳元に残るクリスマスは、私にとって忘れられないものになりそうだった。