第10章 「春」
「でも、その前にさ。」
「?」
先輩は、自分のしていたマフラーを外して私にふわりと優しく巻きつけてくる。
近付いた距離と、先輩のぬくもりの残るマフラーの感触を首元に感じ、思わずドキッとした。
「寒い中、連れ回しちゃうからせめてこれくらいはさせて。菜月に風邪ひかせるわけにはいかないからさ。」
「え………そ、それなら菅原先輩のほうが!風邪ひいたら…」
「俺は大丈夫だって!ほら、行くぞ。」
そう言って先輩が歩き出してしまうから、私はこれ以上言うのも野暮だと思い、ありがたくマフラーをお借りすることにした。
今まで寒風が吹き抜けていた首元にマフラーを巻くだけで、寒さの感じ方が全く違ってくる。
「あったかい………」
「……あー、そういう可愛いこと言うなって。」
「え?」
「いや、何でもない。あったかいなら良かったよ!」
そう言って、先輩はいつものように私の頭を撫でる。