第10章 「春」
「………今日、クリスマスイブだな。」
少しの沈黙の後、隣の先輩がそう呟いた。
「そうですね。今年は何にもクリスマスらしいこと、できそうにないけど。」
「あれ、そうなの?家は?」
「今日は親はどちらも遅いみたいで。だから帰りにちょっと奮発してケーキ買って帰るんです!!」
「………そっか…」
先輩の反応が薄いので不思議に思って彼の方を見ると、ふいに目が合う。
「……あのさ、早く帰らなくてもいいんだったら、ちょっとだけ俺とクリスマスっぽいことしない?」
「??」
「菜月を連れて行きたいとこ、あるんだよな。」
特に予定もないし、一人で家でケーキだけ食べるのもわびしいと思っていた。
だから、先輩のお誘いに笑顔で応える。
「はい、じゃあ行きましょう!クリスマス、しましょう!」
「マジで?よっしゃ!!」
私が行くと言ったことで、先輩が本当に嬉しそうに笑うから、私まで嬉しくなってくる。