第2章 新生活
「おはよう!今日はどうしたの?改札の方見てたけど…」
そう問うと、影山くんは私から視線を外して答える。
「たっ……たまたまだ。」
たまたまで改札をあんなに睨んだりするだろうか。
疑問に思ったけど、それ以上答えてくれそうにはないので歩き始めた影山くんについていく。
そのまま学校まで一緒に歩いた。
そして次の日。改札を抜けると、また影山くんがいた。
昨日と同じ質問をしてみたけど、
「たまたまだって言ってんだろーが!!」
と返されてしまう。
でも私は、影山くんの白い頬がほんのり赤く染まっていることに気付く。
日向くんに、
「菜月って影山のこと怖くないの?女子、結構あいつのこと怖がってるみたいだけど…」
と言われたことがあったけど、私は全くそんなことはない。
鋭い視線や怒声に驚くことこそあるものの、注意して見ていればこうして彼の真意に気付くことができる。
みんなが思ってるほど怖い人でも難しい人でもない。
私はこの数週間でそう思うようになっていた。
その次の日も、影山くんはいた。
私を見つけると軽く挨拶し、行くぞと言って歩き出す。
私ももう同じ質問をするような野暮なことはしなかった。
影山くんなりに、学校で出会った不審人物のことを気にしてくれているのかもしれない。
登校中は、休みなく会話が飛び交うというようなことはないけれど、影山くんとの沈黙はそれはそれで悪くないものだった。
こういうの、居心地がいいっていうのかな。
そんなふうに思う。
こうして登校時は影山くんと連れ立って歩くようになった。
改札前で待ち受ける彼の視線は日に日に柔らかくなっていき、ちょうど一週間を数える頃にはほとんど普通のものになっていた。
バレーは天才的にうまいのに、それ以外のことは総じて不器用そうな影山くんのことを、私は怖いどころか可愛いななんて思う時もあったりして。
本人に言ったらまた怒声をあびそうだから言えないけれど。
影山くんとの朝の自主練や、この登校時間は私にとって影山くんの人間的な魅力を見つける場となった。