第8章 春への道
駅までの暗い帰り道を歩く間、月島くんにさっきの名前呼びの件を何と説明しようかなと考えていたら、彼の方からその話題をふってくれた。
「……あのさ。兄貴に何言われたのか知らないけど、無理して名前でなんて呼ばなくていいから。」
「え、ああ………うん。」
やっぱり、いきなり名前で呼ばれたのが嫌だったのかな………
なんて悪い方向へ想像を巡らせてしまいそうになった時だった。
月島くんが再び、口を開く。
「蛍って呼ぶのは………彼女になってからにして。」
「………!」
思わず隣の月島くんの横顔を見上げてしまう。
私の視線に気付いたのか、彼は照れくさそうに、そして困ったように、前を向いたまま目の動きだけでこちらを窺ってきた。
「僕の名前、好きだって前に言ってたよね。」
「う、うん………」
「じゃあ、早く彼女になれば。名前で呼ばせてあげてもいいからさ。」