第8章 春への道
「こんなこと本当なら兄貴が踏み込んでいいことじゃないんだろうけど……今のあいつのあの感じは、俺のせいの部分が大きいから。」
「お兄さん……」
「だから、俺の勝手で余計なこと言って申し訳ないけど、弟のこと宜しくお願いします!」
お兄さんに頭を下げられてしまい、私は戸惑う。
あたふたしながらお兄さんに告げた。
「あ、頭上げてください!困ります…!」
「ああ、ごめんごめん。」
お兄さんは笑ってすぐに頭を上げてくれたのでホッとした。
その後で、彼はまたすぐに口を開く。
「とりあえずさ、手始めにあいつのこと名前で呼んでみない?」
「え、名前で?」
「そう。月島くんって呼ばれると俺も反応しちゃうんだよね。」
確かに、私はお兄さんのことは「お兄さん」と呼んでいるけど、呼ばれる方からしたら自分だって兄弟と同じ名字な訳だから、さぞややこしいことだろう。
でも、月島くんのことは今までずっと名字呼びだったから今更名前呼びに直すのも恥ずかしいし勇気がいる。
「蛍、くん……」
試しに彼の名前を呟いてみた。
呼び慣れない下の名前は、まるで月島くんじゃない他の誰かの名前を呼んでいるかのような違和感を持って私の口から離れていく。