第8章 春への道
月島くんは相手の暴言にも一切反応することなく、プレーで対抗することを宣言した。
あのおじさんよりずっと大人だ。
大人気ないおじさんに挑むような視線を返す月島くんのことを、私は誇らしく思いながら見つめる。
烏野の最長身ミドルブロッカーをなめないでほしい。
ふんだ、月島くんは頭だって良いんだから。
何回も一緒に練習しているなら、きっとおじさんのスパイク攻略の糸口を掴んできていることだろう。
だからこその先程の発言なんだろうし。
何が何でも止めてほしい。
そしてあの、相手を出し抜いた時に見せるなんとも言えない笑みを見せてほしい!
「が、頑張って月島くん!!」
「……なんで菜月がそんなに気合い入ってるのさ…。」
「だって、あんな言い方されたら悔しいじゃーん!!」
「まあ見てなよ。ちゃんと黙らせてくるから。」
「おお………!」
かっこいい。
かっこいいんだけど……
構図的には完全にあちらが悪役なのに、目の前の月島くんの悪い笑顔だけ見ればこちらが悪役のような気がしてきてしまう。
そんな彼の様子を見て私はつい笑ってしまいそうになる。
でも、笑ったら咎められそうな気がしたので何とかこみ上げてくる笑いを噛み殺した。
そして、月島くんを加えて練習を始めようとするコートに向き直る。
見てなさいよ、おじさん……!
自分が戦うわけでもないのに闘志を燃やしながら、私は拳を固く握ってコートを見つめた。