第8章 春への道
発言してから気付く。
何故か私は月島くんと話すと、いつもより更にボキャブラリーが貧困になる気がする。
目の前にいるのが頭の良い人だと知っているから、素直な感想だけ言っても意図を組んでくれるはず!
と、無意識のうちに頼ってしまっているんだろうか。
前に「小学生と良い勝負」と言われたことを思い出し、私は思わず口を噤む。
「実際、やっぱすごいよ社会人。何かすごい煽ってきてムカつく人いるから帰りたくなる時もあるけど。」
月島くんにそんな風に言わせるなんて。
少し前までは合宿中の自主練にすら参加しなかった月島くん。
そんな彼が自ら部活の後に別のチームの練習に参加しているという事実に、私は驚きを隠せなかった。
彼なりに“バレーにハマる瞬間”というのを模索しているのだと思うと胸が熱くなる。
きっと、地道な練習を積み重ねた先に、その瞬間はあるのだろうから。
月島くん自身もそれを分かっていて努力しているんだと思う。
「………あのさ。」
「ん?」
「見に行ってみる?社会人チームの練習。」
「え!!いいの?」
「それこそ兄貴が菜月の顔見せろってうるさいんだよね。」
「そ、そうなんだ…」