第2章 新生活
その結果、遅刻である。
正規の朝練の時間にはぎりぎり間に合ったものの、今日は影山くんの練習に付き合えなかった。
時間ギリギリに体育館に滑り込んだ私を見て、影山くんがこちらにやってくる。
「どうした、今日なんかあったのか。具合でも悪ぃのか?」
心配してくれて嬉しいけど、全力疾走して呼吸が乱れっぱなしの状態のため、満足に返事ができない。
「ありが…と、大丈夫。昨日……よく眠れなくて…」
膝に手をついて呼吸を整えていると、前に人の気配がしたので顔を上げる。
「おー、ぎりぎりだったな菜月!おはよう。」
そこにはいつもの笑顔の菅原先輩が。
昨日のように様子のおかしなところはかけらも見当たらない。
やっぱり、何かの勘違いだったんだ。
私、夢でも観てたのかな…
そう思い、挨拶を返す。
「さっき、昨日よく眠れなかったって言ってたけど。」
「はい…」
菅原先輩はもう一歩私に近付き、耳打ちをしてくる。
「ねえ、……それって俺のせい?」
「ひゃっ…//」
吐息が耳にかかったのと、菅原先輩のいつもと違うトーンの色っぽい声にぞくっとしてしまった。
思わず、耳を抑えて後ろに飛び退く。
やっぱり勘違いなんかじゃなかった。
夢でもなかった。
現実にあったことなら当たり前なのだけど、菅原先輩は昨日のことをしっかり覚えていた。
私の反応を見て、また笑う先輩はもういつもの菅原先輩で。
続けて口を開いた。
「もしそうだとしたら作戦成功だな!」
ピースサインを向けられたけど、直視できない。
そして、お前、可愛いなー。と、昨日CDを手渡しするのをためらっていた人とは思えない発言が飛び出す。
私、今顔赤いんだろうな。
そう思ったところで、どうにもできないまま、朝練は始まった。