第8章 春への道
大地さんは、私の言葉にしばらく考えたような表情をしたあと、腕を組み、椅子の背もたれに背を預けてから静かに口を開いた。
「 菜月はさ、誰といる時が一番楽しい?誰といる時が一番飾らない、いつもの自分でいられる?」
一番楽しい。
一番飾らない。
「誰のことを一番支えたい?笑顔を見たい?」
一番支えたい。
笑顔が見たい。
「ひどいケンカして、もう顔も見たくないと思ったとしても、やっぱり離れられないやつって誰だと思う?」
何があっても、離れたくない相手。
大地さんの言葉をひとつひとつ、心の中で繰り返す。
「結構ありきたりなことばっか言っちゃったけどさ。俺、最後のやつが結構肝だと思うんだよな。」
「ケンカしても離れられない相手…ですか。」
「そう。本気かそうじゃないかって結構そこで見分けられる気がする。」
頬杖をついて視線をテーブルの一点に注ぎ、大地さんは続けた。
「要は相手に合わせる気があるのか。自分のやりたい事とか思いを曲げても相手を尊重したいと思えるのかってことだよな。
事柄にもよるけど、本当に好きな相手だと、そういうの全部捨ててでも一緒にいたいって思っちゃうものだと思うんだよ。」
「……………」