第8章 春への道
爽やかな笑顔で、この人はなんてことを…!!
先輩は動揺した私の頭をぽんと軽く叩いてから言う。
「ほら、充分休憩しただろ?次の曲次の曲!」
「あ、はーい…」
そう促されて私はまた機械に視線を落とす。
先輩は空気を作るのも上手ければ、その空気を元に戻すのも上手いのだった。
それでも真隣に座った先輩は、わざわざ座り直して距離を取るようなことはしなかったので、結局そのまま至近距離でのカラオケタイムは続いた。
先輩にも協力してもらって、その日は何とか歌う曲を決めるところまで漕ぎ着けた。
これから文化祭までの日々は今日決めた曲をひたすら練習することになる。
歌唱曲がラブソングではないことに満足した様子の先輩は、結局今日も家まで送ってくれた。
去り際に、
「焦る気持ちは分かるけど、あんまり根詰めるなよ。」
そう言い残してから私に背を向けた。
重たかった気持ちを先輩に共有してもらったことで大分心が軽くなっていた。
ありがとうございます、菅原先輩。
去っていく背中を見つめ、そう心の中で呟いてから、自宅へと足を向けた。