第8章 春への道
「!!!!」
その言葉に、思わず顔を上げた。
目の前の先輩と、バッチリ目が合う。
先輩は空気を作るのが上手だから、あっという間に流されそうになってしまうことがある。
今もまさにその状態だった。
恐るべし、菅原先輩。
ゆでダコのようになった顔を自覚して更に恥ずかしくなる。
「む、向きました。先輩のほう、向きましたから…」
「えー、どうしようかな。まだ離してやりたくない。」
「ええ!!」
「はは、悪い。恥ずかしがってる菜月可愛いからつい、いじめたくなるんだよな。」
「いじめたくなるって…先輩、変な趣味はないってこの前言ってたじゃないですか!」
「もちろんそうだけどさ。なんていうの、好きな子をからかう程度の少しのものだって。今だって本当にキスする気は……」
そう言ってから、先輩は視線を少し彷徨わせて俯いた。
「ごめん、お前の制止がもうちょい遅かったらしちゃってたかも。」
「…………!!!」
「彼氏になってからじゃないとって頭では分かってるのにな。」
苦笑いを浮かべた先輩は、私から手を離した。