第8章 春への道
代表決定戦まであと三週間を切った。
いよいよ近付く決戦の時に、練習をこなす皆の表情にも緊張がにじみ始めた気がする。
それでもそんな私達の気持ちにはお構い無しで、もうすぐ私にとっては初めての高校の文化祭の日がやってくるのだった。
最近の私は頼まれごとが多い。
体育祭での部活対抗リレーや、合コンへの参加。
でもまさか文化祭に至ってはそんなことはないだろう。
そう高をくくっていたのだけど。
「菜月ちゃんお願い!出てくれないかなあ。」
「ええ………。」
私の前で頭を下げるのは、以前大地さんのことが好きだと相談してきた友人だ。
この子はうちのクラスの文化祭の実行委員で、今とても忙しい毎日を過ごしている。
頼まれているのは、文化祭終了後の後夜祭で行われる烏野カラオケグランプリへの参加についてだった。
通称“カラカラ”と呼ばれる女子生徒限定のその大会は好評につき、もうひとつの目玉企画であるミスター烏野と共に毎年行われるほどのものらしい。
「この前体育祭の打ち上げでクラスでカラオケに行ったじゃない?その時みんな菜月ちゃんの声に驚いてたし…!」
「それは普段の声とのギャップってだけで…。そんなのに出てくる人なんてめっちゃうまいんだろうからやだよー、恥ずかしいし。」
「大丈夫!すごく上手だったから!クラスで必ず一人は出る人を選ばなきゃいけないんだけど、うちのクラスはなかなか出てくれそうな人いなくて……」
「そ、そっかあ……。」
「このまま誰もいないと私が出なきゃならなくなりそうで。私、歌うのはおろか人前に出るのなんて絶対無理だから困ってて…。」