第8章 春への道
顔を上げると、影山くんが走ってくるのが見える。
あ、やっぱり抜いた……。
本気の影山くんの走りに敵う人はそうはいないだろう。
思った通り、1位でバトンは回ってきた。
「菜月、行け…!!」
たった今まで影山くんが握っていたバトンを持って、私は全力で走った。
前にも隣にも人が走っていない状態なんてこれが初めてかもしれなかった。
無我夢中でラインに沿ってレーンを走る。
景色が流れる先に、私を待つ西谷先輩の姿が見えてきた。
「いいぞ!そのまま来い!!」
ああ、西谷先輩に渡せばもう大丈夫……
差し出したバトンを西谷先輩が受け取って走りだしたのを確認したら急に気が抜けて、足がもつれた。
そして、私は盛大に転ぶ。
「いったあ……」
「大丈夫か菜月?!」
近くにいた菅原先輩が駆け寄ってきてレーンから連れ出してくれた。
「あ……はい、大丈夫です…」
走り終わったという開放感から、力が抜けて私はもうへろへろの状態だった。
ピストルの音が響き、顔を上げるとグラウンドの反対側でゴールテープを切ったらしい西谷先輩の姿が見えた。