第8章 春への道
少しだけ、背中にかかる体重。
私の前で交差する腕。
その両方に、私の足は止められた。
「菅原…先輩…?」
自分の発した言葉と同時に、菅原先輩に後ろから抱きしめられていることに気付いた。
私の右肩に顔を埋めた先輩の声が至近距離で響く。
「影山のところになんて、行くなよ…」
その言葉に心臓を鷲掴みにされたようだった。
菅原先輩には、いつも何でも見透かされている。
私が何も答えないでいると、私を抱きしめる腕の力が強くなった。
「なあ、頼む。行かないで…。」
その腕の力とは対象的に力なく呟く菅原先輩のことを、私は心配になってしまう。
少しだけ身をよじって先輩の表情を窺おうとすると、その拍子に今度は正面からぎゅっと抱きしめられた。
自分たちの他には誰もいない部室。
感じるのは、先輩の体温と鼓動のみ。
「ごめん……俺、今余裕なくて。」
「菅原先輩…あの…」
「悪いけど、離したくない。」