第8章 春への道
影山くんがあんなことを言うなんて。
私は一瞬、耳を疑ってしまった。
でも、帰り道のバスでの影山くんの表情が優れないことから、聞き間違いではなかったことを知る。
確かに及川さんはすごい。
あんなこと、誰にでもできることじゃないと思う。
けど、私からしたらそれは影山くんにも言えることだ。
あんなに精度の高いトスを上げられる人なんてそうはいないはず。
そう伝えたかったけど、そんな雰囲気ではなかった。
それに私がそう言ったところで影山くんの気持ちが軽くなるとは到底思えなかったので、私も学校に戻るまで口は開かなかった。
毎度のことながら、何にも役に立たない自分に腹が立つ。
何のために私はあそこまでついていったんだろうか。
学校に戻って練習をこなし、帰る段になっても私は影山くんの様子が気になって仕方がなかった。
皆今日はたまたまさっさと部室を出て行ったので、今部室には菅原先輩と私と影山くんだけ。
「…じゃ、お先です。」
その影山くんも、支度が終わったのかカバンを提げ、ドアノブに手をかけて行ってしまいそうになる。
「あ…」
何か元気付ける言葉を思いついたわけでもない。
でも、今は何だか影山くんを一人にしてはいけないような気がして。
声をかけようとするも、外に出ていく影山くんの歩みの方が早かった。
追いかけなきゃ。
「菅原先輩、私、今日はこれで失礼します。お疲れ様でしたっ…」
そう言ってカバンに手をかけ、部室を出ようとしたときだった。