第8章 春への道
その様子に、私達二人は言葉をなくした。
初めて会った人同士のコンビにはとても見えなかったからだ。
及川さんはたったの数プレーでOBチームに溶け込み、各スパイカーの個性を最大限引き出すトスワークを展開していた。
この人は何が得意で何が苦手か、どういうトスが好みか、どう声掛けをすれば気持ちを盛り上げることができるのか。
そういったことをそう時間の経たないうちに把握している。
そんなふうに感じた。
観察眼。洞察力。
その他、なんと表現したら良いのか分からないけど、私ですら及川さんはやはりセッターとしての才能溢れる人なのだと分かる。
隣の影山くんは、そんな及川さんの様子をまるで眩しいものでも見るかのように目を細めて見つめていた。
声なんてかけられる訳もなく、気が済んだのか彼が立ち上がって体育館の前を去ろうとするまで無言の状態は続いた。
いきなり立ち上がって歩き出す影山くんを、私は慌てて追いかける。
「あ、ちょっと待って…」
「俺は…。」
私に背を向けたまま、影山くんは呟く。
「俺は一生、及川さんには勝てないかもしれない。」
「え…?」
結局、帰り道で交わした言葉はその一言きりだった。