第1章 出会い
矛盾したことを言う西谷先輩に旭さんが苦笑する。
そこで、皆から笑いが起きた。
そして、ずっと黙って成り行きを見守っていた大地さんが口を開く。
「…よし!とりあえず今日は見学してくか、旭。1年の様子も見てもらいたいし。」
「そうだな。」
「えーっ旭さん!!一発ドカンと決めて吹っ切った方が早いですって!!」
「西谷…俺今日何にも練習道具持ってきてないよ。」
「がーん!」
ショックを受ける西谷先輩を見てまた皆で笑っていると、まだ来ていなかった部員たちが到着し始めた。
「…あれ?旭さん!!!」
田中先輩を始め、一緒にやってきた2年生の先輩たちは、旭さんがいることに皆一様に驚き、そして喜んだ。
まだ旭さんのことを大して知らない私だけれど、みんなの表情を見ていると旭さんの人柄の良さが伝わってくる。
戻ってきて皆にこんなに歓迎されるということは、エースということを差し引いても旭さんの人徳だ。
練習の準備をしようと皆の輪から離れると、菅原先輩に呼び止められた。
「菜月!」
「あ、はい。」
「旭のこと…ありがとな。」
「いえ、私は連れてきただけですから。」
「いや、でもその連れてくるだけ、が俺にはできなかったからさあ。なんか妬ける。」
苦笑した菅原先輩は、すぐにきりっとした表情を取り戻す。
「おし!それじゃあ完全に旭を連れ戻せるように、今日の練習はいつもよりはりきんなきゃだな!!」
「はい!!」
「よし、がんばろーな!」
その言葉と同時に、軽く背中を叩かれた。
菅原先輩はそのまま走っていき、今やってきた日向くんの背中もバシっと叩く。
「うおおおっ!菅原さん!ちーっす!」
「おー日向ー。今日はさ、うちのエースが見に来てるぞ。」
「ええええ!!エース?!どっどこですか!!?」
興奮して周りを見回す日向くんを見て、嬉しそうに笑う菅原先輩。
その笑顔は曇りのないものに戻っていて。
勇気を出してみて良かったなあと心が少し温かくなった。