第7章 東京遠征
私の言葉を聞いた影山くんは一瞬、返答に詰まった。
けど。
「ふざけんなよ……心臓止まるかと思った……!」
気が付くと、私は影山くんの腕の中に閉じ込められていた。
回された腕が私の体をきつく抱いていて、それが影山くんの動揺を物語っている。
「結局…触っちまったじゃねえか…」
「…え?」
「お前が変なことするから!!こっちは菜月に触らねえように必死に…」
影山くんの言葉に、私は先日の彼の宣言を思い出す。
“俺はもう、お前に手は出さない“
この前、私が柱に頭をぶつけたときに伸ばした手を慌てて引っ込めたのはそういうことだったのか…。
「か、影山くん…ちょっと苦しい…力抜いて…」
「うるせえ。ちょっとは苦しんで俺の気持ちを理解しろお前は」
そう言いつつも、影山くんは腕の力を少し緩めてくれた。
でも、まだ開放はされない。
「頼むから…もうこんなことするな。」
「う、うん…ごめんね…。」
心からそう謝った。
いつも心配かけて、ごめん。
私はしばらくの間、お互いのシャツ一枚隔てた影山くんの体温を感じながら心の中で反省するのだった。
そしてその日、体育館に戻ってからの練習で初めて新しい速攻のためのトスは成功した。
喜びから軽くハイタッチを交わすその手は、もう私に触れることをためらう様子はなかった。
影山くんに普通に触れてもらえたことに、どこかほっとする自分がいた。