第1章 出会い
「………」
「どうかした?」
起きて少し経ち、思考がクリアになってきたことで、私も菅原先輩を心配していたことを思い出した。
「もしかして、旭のことかな?」
「え!何で…」
「菜月は顔に出やすいからすぐ分かるよ。」
「無理しないでください、立ち入ったことを聞くのは申し訳ないですし…」
菅原先輩にだって話したくないことくらいあるだろう。
さっき、先輩は旭さんに「俺のせい」と言っていた。
事実はどうあれ、先輩自身は旭さんの件の原因は自分にあると思っている。
「別にそんなことないよ。菜月だってもうバレー部の一員だろ。立ち入った事、なんて第三者みたいに言うなよな。」
「はい…」
「ごめんごめん、俺が話したくないかもと思って気を遣ってくれたんだろ?ありがとう。」
何もかもお見通しの先輩は、ベッドサイドの椅子に腰掛けて、静かに話し始めた。
「旭はさ、うちのエースなんだよ。見ての通りでかいし、力もあるからブロック3枚だって打ち抜ける。難しいボールになっても決めきれる技術を持ってる。」
「はい。」
「だからさ、俺が旭を頼りすぎちゃったんだ。」
試合で、高いブロック力を誇るチームに完封されてしまった。
エースの責任を感じた旭さんは、それ以来心が折れてしまい、部活に来なくなった…。
菅原先輩が責任を感じるのは無理もない話だと思った。
自分のトスで味方の心が折られるようなことは、絶対にあってほしくないだろう。
「1年も有望なやつらが入ってきたし、今なら…って思ったんだけどな。やっぱりだめだった。」
そう言って菅原先輩は俯いた。
気の利いたことを言えない自分に苛立ちを覚え、拳を握りしめる。
「まーでも、まだまだ諦めないけどな!」
言葉と同時に菅原先輩は立ち上がった。
「そろそろ鍵返し行くべ。」
「は、はいっ」
その言葉を合図に私はベッドから降りる。
何か、私に出来ることはないだろうか。
そう考えながら。