第1章 出会い
「…菜月!菜月!」
私を呼ぶ声と優しく揺り動かされたことにより、目が覚めた。
ここはどこだっけ…
「って、ええ!菅原先輩!!」
驚いて跳ね起きる。
そうだ、私、保健室で寝ちゃったんだ…
「学校でそんなに眠りこけるなよなー、全然起きないって保健の先生困ってたぞ?」
菅原先輩は苦笑しながら手の中の鍵を示す。
「最後に戸締まりしてってくれって頼まれちゃったよ。」
「もしかしてもう部活終わりました?!」
「うん、とっくに。だから俺、ここにいるんだし。」
「え…じゃあいつから……あっ、寝顔見ました?!」
今隠しても何の意味もないのに、咄嗟に手で顔を覆う。
「見てたよ。ここでずーっと見てた。」
「そ、そんなー!!」
無邪気な笑顔で先輩は続ける。
「うそうそ、冗談だよ。ほんとはほんのちょっとしか見てない。」
「でもちょっとは見たんじゃないですかー…」
「だってお前ほんとに起きないんだもん。無防備すぎるぞ!」
「ごめんなさい…」
「まあ、慣れない新生活で疲れてるんだろうしこれ以上は言わないけどさ。それで、具合はどうなの?」
「あ…大丈夫です。」
頭のぐらつきはもう感じなくなっていた。
「良かったあー、心配したんだからな?」
菅原先輩は私の答えを聞いて心底安心した、というようにため息をついたあと、保健室の戸締まりを始めた。
「さ、鍵返して帰ろう。」