第1章 出会い
「え…」
「俺がトスを上げた先に、誰もいなかった。合わなかったわけじゃねえ、最初から飛んでなかった。」
正直、そんなことってあるんだ、と思っていた。
でも、それを語る影山くんが心底辛そうだったから、彼の痛みが私にじわじわと伝染する。
「俺は俺の判断で、毎回ベストなトスを上げてるつもりだった。それについてこれなかったり、少しでもさぼるようなやつには本当に頭にきてた。」
「…うん」
「勝つための選択と判断を間違ってたとは思いたくねえけど、あいつらにはそういう俺のトスが我慢ならなかったらしい。」
声を出して相槌をうつのが憚られるくらい、空気が張り詰めていた。
かろうじて頷き返す。
「結果、不満が爆発して最後の試合にそういうことになった。王様って言い始めたのは俺の元チームのやつらなんだ。」
「………!」
「…怖かった。トスを上げた先に誰もいなかったときの感覚。今も忘れられねえ。…そういうのを」
一度言葉に詰まった。
でもまたすぐに話しだす。
「……そういうのをもっと鮮明に思い出させるもんなんだ、俺にとって王様って言葉は。」
「…そっか…」
「だから月島に指摘されてムカっときちまった。驚かせて悪かったな。」
話し終わると、影山くんは今までとうってかわって押し黙る。
私もすぐには話し出せなくて、体育館には一時、静寂が満ちた。