第6章 再起
こういう時は、手を抜いたり恥ずかしがって歌うほうがよっぽど恥ずかしい結果になることが多いと知っているので、もうヤケクソだ。
思いきり歌ってやる。
私が選んだ曲は、私の好きな女性歌手の歌で、卒業を前に好きな人にずっと言えなかった気持ちを告白するというセンチメンタルな内容だった。
私はこの曲が大好きで、カラオケに来ると必ず歌うのでもう歌詞は見なくても歌える。
皆に向かい合わせで歌う形になるので、どこを見たらいいか分からず、ひたすらテーブルの中央を見て歌う。
「私、ずっとずっと前からあなたのこと好きでした。」
最後まで歌いきり、思わずため息をついた。
好きの意味も分からないって言ってるくせに、何でこんなラブソングを歌ってるんだろ、私…。
そう思って顔を上げると、皆が呆然とした表情で私を見つめていた。
誰も次の曲を入れていないようで、部屋が明るくなる。
何これ、この雰囲気。
失言したときの空気に似てる…
早く誰かに次の曲を入れるように促そうとお立ち台から下りようとしたところで、日向くんが口を開いた。
「す、すげえ〜!!普段の声と全然雰囲気違うじゃん!なんかゾクッとしたー!!」
「ああ、歌うときの声違うってのはよく言われるかな。」
「でもさ…なんか、こんな情感こめてラブソング歌われると、まるでこの中に好きな奴がいるみたいに聞こえるよな。」
大地さんがいきなりとんでもないことを言い出した。
「えっ…!」