第4章 変化
「そういうふうに思うようになったのって何かきっかけがあったんですか?」
「近所の幼馴染の兄ちゃんがさ、普通に進学して就職したんだ。それも大手の証券会社。」
「証券マンですか!すごいですね!」
「うん。しかも不況のまっただ中の時の採用だったから近所の皆も感心しきってたんだけどさ、1年ちょいぐらいで辞めちゃったんだよな。」
「ええ!そうなんですか!」
「就職と同時に一人暮らし始めてさ。初めて包丁持ったら料理に目覚めちゃったらしくて。会社辞めたあと調理師の免許取るために学校通って、今はレストランで働いてる。」
「へええ…」
「この前、久しぶりに会ったんだけどすごい良い顔してた。だからさ、その時思ったんだ。やり直しはきくし、そうしたほうが幸せな場合もあるって。」
さっきからバカっぽい相槌しか出てこない。
そのくらい、私は菅原先輩の話に聞き入っていた。
「俺たちの年で、将来のこと明確に決めてるやつのほうが珍しいんじゃないかな。だからあまり考えこまないほうがいいぞ。」
ほら、選ぼう!
そう言って菅原先輩はメニューに視線を落とす。
私は、菅原先輩の言葉を聞いて、先日感じた影山くんとの隔たりについて思い出していた。
自分のやりたいことが決まっていて、それに向けて全力投球している影山くんは眩しいしかっこいい。
けれど、それにどこか引け目を感じる自分がいたのも事実だ。
だから今の先輩の話を聞いて、少し心が軽くなった。
私は再びメニューに視線を落とし、今度は料理を選ぶことに集中することにした。