第4章 変化
「………」
「もしさ、本当にそいつが今見てるんだとしたら逆にチャンスだな。」
「え?」
小声でそう言う先輩に、私は顔を上げる。
私と視線を合わせてにこりと笑った先輩は、私の右手をふわりと包んだ。
そして、耳元で囁く。
「俺のこと、彼氏と勘違いしてもらおう。」
「え!!」
そんな、危ないですし…
そう言おうとしたけれど、菅原先輩が自分の顔の前で、しーっと指を立てるから、それ以上何も言えなくなる。
「好きな子ひとり守れないなんて、男として情けないだろ。」
菅原先輩に優しく手を引かれて、再び歩き出す。
普通に繋がれていた手に、突然、菅原先輩の指が絡んだ。
所謂、恋人つなぎというもの。
たったこれだけの違いで、先輩との距離が一気に近付いた気がして私はまたドギマギしてしまう。
「本当なら、またキスでもして見せつけてやりたいとこだけど。それは、菜月に合格もらって『本物』になってからじゃないとな。」
そう言って先輩は笑う。
私は、恥ずかしくて先輩から視線をそらしてしまった。
「今はまだ本物じゃないけどさ。お前に何かあったら俺が嫌だから、このこと解決するまでは家まで送らせて。」
「あ、ありがとうございます…」
「気にするなよ、俺は菜月の彼氏なんだからさ!」
先輩は空いたほうの手で私の髪を優しく撫でながら、わざと大きな声でそう言う。
演技だと分かってはいても、彼氏とか言われるとドキッとしてしまう。
その日は、その後もろくに菅原先輩の顔を見られないまま、家まで送ってもらった。
繋いだ右手は、家の前で別れる時まで離れることはなかった。