第1章 出会い
「影山くん…」
私が視線を合わせると大げさなくらいの勢いであさっての方向を向いてしまった。
その行動が気になり、小走りで彼のところへ向かう。
「影山くんっ何かあった?」
「な、何がだよ!別に何もねーよ。」
「そっか…あ、あのさ、影山くんも良かったら私のこと名前で呼んでね!」
「は!?」
割と接しやすい他の部員の人たちと違って、影山くんには自分からどんどん話しかけていかないと仲良くはなれない。
そんな気がしていたので、思わず勢いでそう言ってしまった。
「あ…いいのいいの、嫌だったら全然。気にしないでー!それじゃ…」
準備の続きをする為、背を向けようとした瞬間。
腕が掴まれた。
「あっ……悪い。痛かったか?」
掴まれた腕は、ハっとした表情の影山くんによってすぐに離された。
「う、ううん全然。平気だよ。」
「そうか。あの…嫌とか全然そんなことねえから。」
「?」
「だっだから!名前だよ名前!」
「あ…」
「 ……菜月 。」
影山くんに初めて呼ばれた私の名前は、ほとんど吐息に近くて聞き取れるか否かの際どいものだったけれど、少しだけ影山くんと仲良くなれた気がしてすごく嬉しかった。
だから、笑顔で返事をする。
「うん!」
「お前さ、朝って毎回今日みたいに早く来るつもりなのか。」
「んー、必要があればそうするつもりだよ。なにか手伝えることとかある?」
「…ボール出し、してほしい。」
「おー!それなら私もできそう!明日から手伝うね!」
「おう」
今、僅かに笑顔が見えた気がした。
「集合ーっ!!」
大地さんの号令がかかる。
「サンキューな。」
影山くんは私を追い越して皆の輪の中へと走っていく。
すれ違う瞬間にぼそっとお礼の言葉を残して。
思わず笑みがこぼれた私も、影山くんの背中を追って輪の方へと走る。