第4章 変化
人波をかき分け、何とか会場に入ってスタンド席に落ち着いた。
席からコートを見下ろすと、そこには昔からお馴染みのバレーボール協会公式キャラクターのバリボちゃんの着ぐるみがいた。
「あー!見てみて影山くん、バリボちゃんだよ!」
「お前あんなキャラクター好きなのか?」
「可愛いじゃんバリボちゃん。私昔から好きだよ。」
「ふーん…ボールから手足はえてるとか何か怖くねえか。」
「それで10等身とかだったら確かに怖いけどさ…チビだから可愛く思えるんだよ!」
つぶらな瞳でボールから短い手足を伸ばすバリボちゃんは、コート内をゆっくりとした足取りで周回していた。
「本物初めて見たー。楽しいー!」
イベントの空気感に興奮して騒いでいたら、突然館内の照明がフッと落とされた。
どうやらイベントが始まるようだ。
一人ひとり、選手がスポットライトに照らされて、サインボールを客席に投げてからコートに入ってくる。
今日のイベントに参加する選手は元日本代表の現役を退いた人がほとんどだ。
その中で、唯一の現役選手の王子が入場してきた時の会場の盛り上がりは、さながらアイドルのようだった。
当然、王子が投げたボールは客席で奪い合いとなる。
それを見て怖くなった私は、こっちにボール来なくて本当に良かった…と胸をなでおろした。
そして、素直な感想が漏れた。
「なんか…及川さんみたいだね。あの人が代表に入ったら、あんな感じになりそう。」
「ああ?!」
隣でコートを見つめていた影山くんが凄い勢いでこちらに顔を向けた。
「俺といる時に及川さんの話とか…すんな。」
「…うん、ごめん。」
失敗した。
影山くんが意識している人の名前をわざわざ出すんじゃなかった。
私は軽く反省して、再びコートの方へ視線を向けた。